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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)1526号 判決

昭和四九年(ネ)第一五二六号事件控訴人

昭和四九年(ネ)第一五七一号事件被控訴人(以下、第一審原告という。)

鈴木正一

昭和四九年(ネ)第一五二六号事件控訴人

昭和四九年(ネ)第一五七一号事件被控訴人(以下、第一審原告という。)

鈴木イチ

昭和四九年(ネ)第一五二六号事件被控訴人(以下、第一審被告という。)

昭和四九年(ネ)第一五七一号事件控訴人

昭和四九年(ネ)第一五二六号事件被控訴人(以下、第一審被告という。)

東京都

"

主文

原判決中、第一審被告東京都に関する部分を次のとおり変更する。

第一審被告東京都は第一審原告らに対しそれぞれ金三六万円及び内金三〇万円に対する昭和四二年五月一日以降、内金六万円に対する本判決確定の日の翌日以降各完済に至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

第一審原告らのその余の請求を棄却する。

第一審原告らの第一審被告国に対する控訴及び第一審被告東京都の控訴をいずれも棄却する。

訴訟費用は、第一、二審を通じ、第一審原告らと第一審被告国との間に生じた分は第一審原告らの負担とし、第一審原告らと第一審被告東京都の間に生じた分は二分し、その一を第一審原告らの負担とし、その余を第一審被告東京都の負担とする。

この判決は、金員給付を命ずる部分(ただし、六万円に対する遅延損害金の支払いを命ずる部分を除く。)に限り、仮に執行することができる。

事実

第一審原告らは、主たる請求を減縮したうえ、「原判決を次のとおり変更する。第一審被告らは各自第一審原告それぞれに対し金八八万円及びこれに対する昭和四二年五月一日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。」との判決及び仮執行の宣言を求め、第一審被告国は、控訴棄却の判決を求め、第一審被告東京都は、「原判決のうち第一審被告東京都の敗訴部分を取消す。第一審原告らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも第一審原告らの負担とする。」との判決を求め、第一審原告らは第一審被告東京都の控訴を棄却する旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次に附加訂正するほか、原判決事実摘示と同一(ただし、原判決一一枚目裏三行目の「昭和四六年」を「昭和四一年」と、一六枚目裏三行目から四行目にかけての「ようにマンホール附近」を「地点」と、七行目から八行目にかけての「マンホール付近」を「衝突地点」と改める。)であるから、これを引用する。

(第一審原告らが主たる請求を減縮したこと等による訂正)

原判決一四枚目裏末行から一五枚目表一〇行目まで及び末行の「(2)」を削り、一五枚目裏一行目の「一〇万円」を「八万円(請求額の一〇パーセント)」と、一、二行目の「一〇万円」を「八万円」と、四行目の「一一六万円」を「八八万円」と、同行の「各」から五行目の「一〇六万円」までを「これ」と、同行の「四八年一月一日」を「四二年五月一日(本件不法行為を構成する、虚偽のスリツプ痕を記載した実況見分調書が検察庁へ送付された昭和四二年四月八日の後の日)」と、二二枚目裏一行目の「一一六」を「八八」と、二行目の「各内金一〇六万円」を「これ」と、「四八年一月一日」を「四二年五月一日(本件不法行為を構成する、虚偽のスリツプ痕を記載した実況見分調書が検察庁へ送付された昭和四二年四月八日の後の日)」と改める。

(第一審被告東京都の主張)

訴外栗田勝次郎は、本件事故発生当日、報道関係者に対し本件事故はスバルがセンターラインを越えたために発生したものであると発表したが、これは十分な捜査に基づいて判断した結果を発表したのであるから、同人に過失はない。

民事上の不法行為である名誉毀損については、当該行為が公共の利害に関する事実に係り、もつぱら公益をはかる目的に出た場合において、摘示された事実が真実であることが証明されたときは、その行為に違法性がなく、不法行為は成立しないと解するのが相当であり、もし右事実が真実であることが証明されなくとも、当該行為者においてその事実を真実と信ずるについて相当の理由があるときは、不法行為は成立しないのである。

本件において、仮に衝突地点の認定等に誤りがあつたとしても、栗田が発表内容を真実であると信ずるについて相当な理由があつたのであるから、不法行為は成立しない。

(証拠関係)(省略)

理由

一  当裁判所も第一審原告らの請求は、主文認容の限度において正当であると判断するものであるが、その理由については、次に附加訂正するほか、原判決と同様であるから、その説示(原判決二四枚目表二行目から六五枚目表五行目まで)を引用する。

二  原判決二五枚目裏一、二行目「当事者」の次に「間」を加え、同八行目、二七枚目表五行目、裏九行目の「若千」を「若干」と改め、二七枚目表八行目の「九」の次に「、一四」を、二八枚目表一〇行目の「三二」の次に「、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第三四号証」を加え、二九枚目表二行目の「三、四」を「三、五」と、末行の「記載と」を「記載及び」と、同裏四行目「及び」を「並びに」と改め、三〇枚目表一〇行目「るから」を削り、同裏八行目の「いえよう。)」の次に「右各事実及び前顕甲第三四号証の記載を総合考察すれば」を加え、九行目の「前のある時間」を「直前」と、「七〇」を「約八〇」と、一〇行目「認められる」を「認めるのが相当である」と、三三枚目裏五行目の「東京都公安条例」を「東京都公安委員会の指定」と改め七行目の「るから」を削り、同行「本件衝突前」の前に「、右各事実及び前顕甲第三四号証の記載を総合考察すれば」を加え、八行目の「五〇」を「四〇ないし五〇」と、三四枚目表五行目「進行方法」を「進行方向」と、同裏九行目の「内廻り」を「外廻り」と改め、三五枚目裏一行目の「ことではない。」の次に「この点は前顕甲第三四号証の記載からも裏づけることができる。」を加え、九行目の「先行」を削り、三六枚目表九行目の「得ないから」を「えず、このこと及び成立に争いのない甲第四〇、四一号証、前顕甲第三四号証の各記載を総合考察すれば」と改め、末行の「いう。)」の次に「から更に北へ約三、五メートル離れ、かつ、右通行帯内でセンターラインのわずか西側のガラス破片、泥土等の落下していたあたり(以下、甲点付近という。)」を加え、三七枚目表六行目の「七〇キロメートル以上」を「約八〇キロメートル」と、七行目の「前記」の次から八行目の「左端」までを「甲点付近に達したところ、その付近で、対面から走行し、右に転把したスバルの左前輪のあたりに左前バンパーあたりを激突させ、ついで、その衝撃により横向になつたスバルの左後輪」と改め、同裏三行目から九行目までを削り、一〇行目の「(三)」を「(二)」と改め、三八枚目表八行目「前記道路の」から一〇行目「マンホール」までを「甲点」と、同裏一行目の「七〇キロメートル以上」を「約八〇キロメートル」と、九行目の「マンホール付近」を「衝突地点」と、三九枚目表二、三行目の「マンホール」を「甲点付近」と、七行目の「一九・四」を「二二・二」と八行目の「マンホール」を「甲点」と改め、同裏一行目の「ならず、」の次に「このこと及び成立に争いのない甲第四四号証、前掲甲第三四号証の各記載を総合考察すれば、」を加え、六行目の「マンホール」を「甲点付近」と、末行の「マンホール」を「甲点」と改め、四二枚目表四行目から四三枚目表四行目までを削り、五行目の「(2)」を「(一)」と改め、「前顕」から六行目の「五、」まで、七行目の「に弁論の全趣旨」、八行目から裏一行目の「あること、」までを削り、四四枚目裏一〇行目の次に次のとおり加える。

「(二)右認定したところからすれば、本件実況見分図の作成者らは、先行事故の浜田雄毅運転の乗用車のつけたスリツプ痕をスバルのスリツプ痕と誤認したかのようにも見られる。しかし、前掲甲第二一号証の二五、三七によると、先行事故の実況見分は、本件事故の実況見分の補助者である警察官後藤清が主宰し、その補助者である警察官渡辺忠美は本件実況見分の立会人となつていることが認められ、前掲甲第二一号証の三七によると、先行事故の実況見分調書上、スリツプ痕とされた痕跡は、国際タクシー、浜田車ともそれぞれ一条しかなかつたものとして表示されていることが認められる。

これらの事実によると、本件実況見分図の作成者らが先行事故の浜田車のスリツプ痕をスバルのスリツプ痕と誤認したということは通常考えられないことであり、更に、前掲甲第二〇号証の三の一には、浜田車のスリツプ痕と認められる影像を看取できないから、同号証の撮影時刻、浜田車のスリツプ痕があつたとされた位置等の事情を考慮しても、浜田車のスリツプ痕が果して存在したかについても疑いが残り、そうだとすると、右の誤認ということの蓋然性はますます小さくなるものといわざるをえない(別添写真図に示されたスリツプ痕(A)は、その位置形状からして、先行事故、本件事故のいずれとも関係がないものと認めるべきである。)。

(三) 前掲甲第二一号証の一ないし六、甲第二一号証の二五及び弁論の全趣旨によれば、環状七号線は車の通行量の非常に多い幹線道路であり、本件事故の発生した現場付近の路面には常時多数のスリツプ痕、タイヤ痕が残留し、中にはセンターラインを越えてスリツプ痕がついていることもあることが認められるから、後述のように、本件実況見分図の作成者らが故意に事実と異なつた実況見分図を作成したことが認められない以上、同人らは、軽率にも、右スリツプ痕、或いはタイヤ痕をスバルのスリツプ痕と誤認したものと認めるのが相当である。

もつとも、前掲甲第二二号証の一四、成立に争いのない甲第二二号証の一三によると、本件実況見分調書を作成した世田谷署交通課長栗田勝次郎、同調書作成時の補助者後藤清は先行訴訟事件における証人として取調べを受けた際、前者は、スバルのスリツプ痕はなかつた旨、後者は、スバルのスリツプ痕はあつたか、なかつたか思い出せない旨供述していることが認められるが、これは必ずしも右認定を妨げるものではない。」

四四枚目裏末行から四八枚目裏九行目まで、五〇枚目表一〇行目の「先行事故」から末行の「あるいは」までを削り、五二枚目表二行目の「マンホール付近」の次に「及び甲点付近」を加え、五行目の「マンホール」を「甲点」と、五三枚目裏四行目の「睡眼」を「睡眠」と改め、五七枚目表四行目の「うえ、」から五行目の「された」までを削り、裏七行目「原告ら」を「原告正一」と改め、五八枚目裏九行目から五九枚目裏四行目までを削り、五行目の「3」を「2」と、六〇枚目表八行目の「一五万円」を「三〇万円」と、末行の「五万円」を「六万円」と改め、六二枚目裏八行目の「第三一条」の前に「第一七条、」を加える。

三  以上のべたところによれば、第一審原告らの請求は、第一審被告東京都に対し、第一審原告らに各三六万円及び内金三〇万円に対する昭和四二年五月一日(前認定のように、世田谷署交通課長栗田勝次郎が本件事故はスバルの一方的過失によるものであることを報道関係者に発表した昭和四一年一二月二九日の後の日)以降、内金六万円に対する本判決確定の日の翌日(弁護士費用については判決確定の日に弁済期が到来するものと解するのが相当である。)以降各完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において正当であるが、その余の請求はいずれも失当というべきである。

よつて、これと一部結論を異にする原判決を右の趣旨に変更し、第一審原告らの第一審被告国に対する控訴、第一審被告東京都の控訴をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九六条、第九二条本文第九三条第一項本文を、仮執行の宣言について同法第一九六条第一項を各適用し、主文のとおり判決する。

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